企業のBCP用電源を選定する際、担当者はどうしても容量や出力といった性能面を重視しがちですが、実際に非常時に電源を使うのは、必ずしも導入を決めた担当者本人とは限りません。夜間や休日に災害が発生した場合、その場に居合わせた別の社員が、初めて触る機材を扱うことになる可能性も十分にあります。今回は、初心者向けと位置づけられた軽量モデルのレビュー動画を題材に、非常用電源を「誰が操作しても迷わない」状態にしておくことの重要性について整理してみたいと思います。

なぜBCP用電源は「操作の属人化」がリスクになるのか
BCP(事業継続計画)の本来の目的は、特定の担当者がいなくても事業を継続できる体制を整えることにあります。しかし、非常用電源の運用が特定の担当者しか扱えない状態になっていると、その担当者が不在のタイミングで災害が発生した場合、せっかく導入した設備が十分に機能しない恐れがあります。
操作が複雑な機種ほど、緊急時に使いこなせる人が限られる
非常用電源の中には、出力モードの切り替えやアプリ連携など、多機能である一方で操作が複雑な機種も存在するようです。平常時にじっくり説明書を読める状況であれば問題になりにくいものの、停電直後の慌ただしい状況で、初めて触る社員が正しく操作できるとは限りません。機能の豊富さと操作の分かりやすさは必ずしも比例しないため、選定段階では「初めて触る人でも迷わず使えるか」という視点を持っておくことが望ましいと考えられます。
導入担当者の異動・退職で運用ノウハウが失われるリスク
非常用電源を導入した担当者が異動や退職でいなくなった後、操作方法や設定内容が誰にも引き継がれていない、というケースは珍しくないようです。特に、初期設定やアプリの登録情報などが担当者個人のスマートフォンやメールアカウントに紐づいたままになっていると、後任者がその情報にアクセスできず、いざという時に困ってしまう可能性があります。属人化を避けるためには、操作方法だけでなく、設定情報や管理者権限そのものを、個人ではなく部署単位で引き継げる形にしておく必要があるようです。
「誰が担当か分からない」休日・夜間の停電にどう備えるか
停電や災害は、平日の業務時間内に起きるとは限りません。休日や夜間に発生した場合、その場に居合わせるのはたまたま宿直に入っていた社員や、近隣に住む社員など、非常用電源の存在すら知らない人になる可能性もあります。こうした状況を想定すると、「操作方法を知っている特定の担当者」に依存した運用計画そのものが、休日・夜間のリスクに対しては機能しない恐れがあると考えられます。設置場所の分かりやすさや、誰でも見てすぐ分かる表示を用意しておくことも、属人化対策の一部として位置づけられそうです。

「初心者でも扱える設計」から考える選定・運用の観点
動画で紹介されていたモデルは、初めてポータブル電源を使う人でも扱いやすいことを打ち出した製品として位置づけられていました。この「初心者でも扱える」という切り口から、BCP用途での選定・運用に応用できる観点を整理してみます。
物理ボタンや表示画面が直感的に理解できるか
タッチパネルやアプリでの操作が中心の製品は、平常時の使い勝手としては優れている場合がある一方、停電でスマートフォンの充電が乏しい状況や、アプリの操作に不慣れな社員にとっては、かえって扱いにくくなる可能性があります。本体の物理ボタンや表示画面だけで主要な操作が完結する機種であれば、アプリの有無に関わらず、その場にいる誰もが最低限の操作を行いやすくなると考えられます。BCP用途で選定する際は、アプリ操作に依存しすぎていないかを確認しておく価値がありそうです。
軽量であることが「誰でも運搬できる」安心感につながる
非常用電源は、災害の状況によっては保管場所から使用場所まで人の手で運ぶ必要が生じることがあります。重量のある機種の場合、力に自信のある特定の社員でなければ運搬が難しく、結果として「運べる人が限られる」という別の形の属人化が生じてしまう可能性があります。動画で紹介されていたような軽量設計のモデルであれば、性別や体力に関わらず、その場にいる社員が運搬しやすくなり、対応できる人の幅が広がるという利点があるようです。

初期設定が簡素で、導入後すぐに使える状態を維持しやすいか
初期設定に手間がかかる製品は、導入直後こそ丁寧にセットアップされていても、時間が経つにつれてファームウェアの更新や再設定が滞り、いざという時に「充電が空だった」「設定がリセットされていた」といった事態を招くことがあるようです。設定項目が少なくシンプルな機種であれば、日常的な点検や充電の維持管理も簡単になり、複数の社員が交代で点検を担当する体制を組みやすくなると考えられます。
表示言語や単位表記が社員全員にとって分かりやすいか
海外メーカーの製品の中には、初期状態の表示言語が英語のままだったり、単位表記が国内で馴染みの薄い形式になっていたりするものもあるようです。日本語表示への切り替えが分かりにくい機種の場合、緊急時にわざわざ言語設定を探す手間が発生してしまう可能性があります。導入前に、日本語表示への切り替えが簡単にできるか、初期状態でどこまで日本語化されているかを確認しておくことも、属人化を避ける観点では地味に効いてくるポイントだと考えられます。
属人化させない運用体制を社内でどう構築するか
製品選定の観点に加えて、実際の運用フェーズで属人化を防ぐための工夫についても触れておきます。
操作手順を1枚の図解にまとめて機材本体に添付しておく
複雑な説明書を読み込まなくても、電源の入れ方・出力の切り替え方・充電の仕方といった最低限の操作が分かるよう、1枚の図解にまとめて機材本体や保管ケースに貼り付けておくことは、属人化対策として有効な工夫の一つとされています。文章だけの説明書よりも、図解のほうが緊急時には理解されやすいという声もあるようです。

定期的な操作訓練を「知っている人」以外も対象に実施する
防災訓練の一環として非常用電源の操作を確認する企業もありますが、その対象が導入担当者や一部の社員に偏っていると、属人化の解消にはつながりません。訓練の対象を部署内でローテーションし、これまで触ったことのない社員にも操作を経験してもらう機会を設けることで、実際に使える人の母数を増やしていくことができると考えられます。
新入社員・異動者向けの受け入れ研修に電源操作を組み込む
新しく配属された社員や異動してきた社員向けの受け入れ研修の中に、非常用電源の設置場所と基本操作を確認する項目を組み込んでおくことも、属人化を防ぐ有効な仕組みの一つと考えられます。防災訓練のような特別な機会を待たずとも、日常の研修フローに組み込んでしまえば、継続的に「操作できる人」の母数を維持しやすくなるはずです。
複数拠点・複数部署で機種を統一し、共通の操作方法にしておく
拠点や部署ごとに異なる機種を導入してしまうと、ある拠点では操作できても別の拠点では扱えない、という状況が生まれやすくなります。可能な範囲で機種を統一し、どの拠点の社員が異動しても同じ操作方法で対応できるようにしておくことも、属人化を防ぐ運用設計の一つの考え方といえそうです。

まとめ|「誰が使うか分からない」前提で電源を選ぶ
非常用電源の選定というと、容量や出力といったスペック面に目が向きがちですが、BCPの本来の趣旨に立ち返れば、「特定の担当者がいなくても機能する体制」を作ることこそが重要な観点のはずです。操作の分かりやすさ、本体の軽さ、初期設定のシンプルさといった「初心者でも扱える設計」は、単なる使い勝手の良さにとどまらず、属人化を避けるための実質的なリスク対策として捉え直すことができるかもしれません。
導入時には、性能や価格だけでなく「この機材を、導入担当者以外の社員が緊急時にすぐ扱えるか」という視点で一度確認してみることをおすすめします。誰が操作しても迷わない体制を平時のうちに整えておくことが、実際の非常時における初動の速さを左右する分かれ目になりそうです。
特定の担当者の知識や経験に頼った防災体制は、その担当者が異動・退職・不在になった瞬間に機能しなくなるという意味で、本質的には脆弱な体制だと言えるかもしれません。機材選定の段階から「引き継ぎやすさ」「教えやすさ」という観点を持ち込むことで、BCPの本来の目的である事業継続性そのものを底上げすることにつながっていくはずです。次回の機材更新や増設のタイミングでは、性能表だけでなく、この「誰でも扱えるか」という一点をぜひ確認項目に加えてみてください。
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